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PRODUCT & GRAPHIC DESIGN. Design = Capture the essence

本のデザインを考える

      2016/11/10

単行本と文庫本のデザインの違い

小説が好きで、よく文庫本を読む。

図書館で借りる時もあれば、本屋で買う時もある。

どちらの時も共通しているのは、単行本は買わない・借りないという点。

 

なぜか?

ハードカバーという仕様が本を読むのに適したデザイン(機能・仕組み)になっていないから。

見出しにもデザインという言葉を入れているが、ここでのデザインとは表紙等のグラフィックデザインではなく、読書と言う行為の為のデザインや本そのものをプロダクトとして捉えた場合のデザインをさす。

 

単行本の多くがハードカバーを採用している。

だが、あれは数百ページもある読み物を読む時に必ず発生する行為「ページを捲る」がし辛い。

まず、カバーと本文とで微妙にサイズに差がある、ページを捲る時にこの数mmの差で手のひらにストレスがかかる。

手が決して大きくない自分には、片手だけで本の位置を維持しつつ、100回以上も捲るのは非常にストレスがかかる。

ハードカバーに合わせて自らが動きを取らないと行けないイメージだ。

また、単行本にはご丁寧に栞(紐)が付いている場合が多いが、あれもあまりに使い勝手が悪い。

あのような薄い紐では、ハードカバーと本文との重さに負けてしまい、スムーズにページを開く事が出来ない。

栞のページに指・手を入れ本を開く、そして栞を外すという一連の行為が終わって初めて本の中身にたどり着ける。

もっとスムーズに本の中の世界に入っていきたい。

 

一方、文庫本の場合はソフトカバーが主流だ。

ソフトカバーは、本自体が自分の手に合わせてくれるイメージを持っている。

手が小さくても、本を気持ち湾曲させて持つことで数百ページの本を持っていても苦にならない。

読みはじめから終盤に差し掛かるまではこの湾曲を利用してページを捲る事が出来る。

親指を少しずらすだけでストレス無くページを捲れる。

ストレスが無いだけで、本の中身に集中できる。

栞は付いていない事が殆どだが、自分自身で読んできた本なのだから、パラパラとページを捲っていれば目的の場所は見つけられる事が殆どだ。

人間の目と脳はよく出来ている。

かなりのスピードで捲っていたとしても、自分が知っている(既に読んだ)内容か、知らない(まだ読んでいない)内容かは瞬時に判断でできる。

また、既に捲ったページとまだ捲っていないページとでは微妙に違いが生まれている。

紙と紙の間に生まれるわずかな隙間や紙の皺など、意識していなくても脳が判断してくれている。

栞など無くても脳が判断してくれる。

 

電子書籍の台頭が生んだ新しいデザイン

ここ数年気になっているのはAmazonのKindleだ。

今、多くの書籍で電子書籍化が進んでいる。

その大きな波を作ったのは iPod touch、スマートフォン、タブレット端末である。

Kindleは電子書籍だけに特化した端末で、敵はほぼいない状態にまで成長した。

上記にあげた3つの端末が、どうしてもKindleに勝てない理由、それは「紙」へのこだわりである。

他の端末が複合的な役割(電話やweb、メールなど)を果たす目的で作られたのと対照的にKindleは「紙」に近づけること、「本」を読む為の端末として完全に特化して作られているからだ。

スマートフォン等で電子書籍を読んだりPDF文書を読んでいるととても疲れる、一方でKindleはそういった部分を限りなく「紙」に近づける事で解消している。

前項であげた、ハードカバーのデメリットとソフトカバーのメリットの両方をKindleはカバーしている。

ページを捲る事は簡単に、ストレスを感じる事無くできる。

前回読んでいた部分の続きから表示される、今まで脳が対処していた部分はテクノロジーが代わりにやってくれている。

 

本の制作や出版に関わってきた方々は、紙面のデザインや中身、店頭での売り方、書評をうまく活用したPRなどは一生懸命やってきていたと思う。

だが、本が何十年も前からその形が変わっていないという事から想像するに、本をプロダクトとして考えたことは無いのではないだろうか。

本をプロダクトデザインとしてとらえていれば、本を読む時の姿勢や手の動きや重さ、場所やシチュエーションを想定して本をデザインしていたはず。

本や雑誌が売れなくなり、出版社がつぶれたり、休刊になったりすることが多い中、Kindle版のみで販売している書籍は増え続けている。

一時期は自費出版と言うケースが増えたが、最近はそれよりもハードルが低いKindle版だけでの販売を選ぶ方が多い。

オウンドメディアを持つ人に取って、沢山の販売店は不要である。

なぜなら、どこで売っているかの情報をオウンドメディアで告知すれば売り上げをあげられるから。

販売店に書籍を置いてもらう交渉をするより、直接個人に働きかける。それが出来るインフラが整っている。

今後もKindle優位の状況は続くだろう。

唯一の懸念点は、KindleはAmazonという一民間企業が提供するサービスと端末という点だ。

本の販売終了・対応端末の販売終了・サービスそのものの終了によって、利用できなくなる可能性がある。

だが、本をプロダクトとして捉えた場合、今最も優れた本はKindleだと思う。

端末の良さは知人に借りた際に確認済みがだ、「実物を手元に置いておく」と言う観点から未だに文庫本を買ってしまっている。

だが、最近は読みたい本がKindle版だけのものが多く購入を検討中、日本では本離れが確実に起きているがKindleがあれば本を読む人もまた増えるだろう。

 

Kindle Paperwhite Wi-Fi ブラック

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